CASES/CASE / 004
AI エージェント開発

AI で刷新するメディア CMS

「とりあえず LLM を入れる」やり方を避けるため、PoC は顧客と精度の合格基準を決める場として使った。古い CMS の置き換えと AI 機能(関連記事抽出・記事自動分類)の追加を同時に進め、AI 機能と記事配信を別々の基盤に分けて、互いを止めずに改修できる構成にした。6ヶ月で本番納品を終えた。

CMSMediaLLM
TYPE
基幹刷新
RELEASE
6ヶ月
SCALE
大規模
OUTCOME
独自モデル開発
AI で刷新するメディア CMS

既知の難しさと未知の難しさが、一つの納期に重なった

古い CMS(記事の編集・配信を管理するシステム)の置き換えに、関連記事抽出と記事自動分類という新しい AI 機能まで一緒に載せたい — 難しさの種類が違う2つの作業を、同じ納期のなかで進める案件でした。

現場で使えるレベルの AI を入れたい。

大手スポーツメディアの編集業務は、既存の CMS では回らなくなっていました。一方で「とりあえず LLM を入れたい」という社内の要望だけが先に立ち、何を、どの精度で、業務のどこに組み込むかは決まっていませんでした。

  • 記事配信基盤の置き換え:既知の難しさ。安全に移行し、運用を続けながら、編集者の業務を止めないこと
  • AI 機能の新規実装:未知の難しさ。編集現場が実際に使える精度の水準を決めるところから始める

そこで、既知の難しさと未知の難しさを並行して抱える前提を、最初に関係者と共有しました。この前提がないまま始めると、先の読めない AI 機能の作業が膨らみ、納期を圧迫します。

PoC を「精度の合意書」として使った

最初の数週間は、「LLM を入れる」こと自体より、「どこに、何の機能を、どの精度で組み込むか」を顧客と合意することに充てました。PoC は技術検証のためではなく、精度の合格基準を、契約に書けるほど具体的に取り決める場として使いました。

PoC の出力を編集現場で実際に使ってもらい、合格・不合格をチームで判定する作業を繰り返しました。

  • 関連記事抽出:編集者が想定する関連性と、AI が拾う関連性の差を、編集者の評価で数値化
  • 記事自動分類:既存カテゴリ体系のうち、AI に任せる範囲と人手で確認する範囲の境界を決定
  • 合格水準を超えなければ、機能として公開しない:PoC の結果を、本番に出すかどうかの判断基準にする

「とりあえず入れる」を選ばなかったからこそ、公開直後から編集現場の信頼を得られました。メディア事業では、出してから直すやり方で一度信用を失うと、取り戻すのは困難です。

AI と記事配信を、別々の基盤に分けて独立に育てる

AI 機能と記事配信を一つの基盤にまとめると、片方の改修がもう片方を止めます。両者を分けて、それぞれが単独で改修を続けられる構成にしました。

編集現場の機能改修と AI モデルの更新は、本来それぞれ別のペースで進みます。一つの基盤に押し込むほど、そのずれのしわ寄せが現場の納期に及びます。

AI 機能を一つの基盤に集め、記事配信とは決まった接続口でつないだ

関連記事抽出と記事自動分類には、この案件のために独自の AI モデルを開発しました。これらの AI 機能は、クラウド事業者が提供する AI 実行サービスと機械学習の仕組みを組み合わせ、一つの基盤にまとめています。記事配信はそれとは別のクラウド基盤の上に置き、両者を API(システム同士がデータをやり取りするための接続口)でつなぐ構成です。

  • AI 機能の基盤:モデルの差し替えを、記事配信を止めずに単独で完結できる
  • 記事配信の基盤:編集者の機能要望に、AI 機能を止めずに応えられる

AI 機能と記事配信の改修を、互いに止めることなく並行して進められました。納期内で機能を削らずに済んだのは、このためです。

本番に反映する前に、不具合を自動で見つける検査の仕組みを作った

大手スポーツメディアの本番環境は、稼働を始めたら止めることが許されません。そこで、プログラムの変更を本番に反映する前に、人のレビューに加えて、自動で問題を見つける検査工程を必ず通す運用にしました。

  • 入出力の整合チェック:仕様変更による食い違いを、人がレビューする前に自動で見つける
  • データ構造の履歴管理:構造変更に履歴を持たせ、本番でも前の状態に戻せる
  • 既知の障害パターンの検出:過去に起きた障害と同じ問題がないかを、毎回自動で確かめる

この検査の仕組みは、運用フェーズに入ってからも、新機能を継続的に追加できる土台になっています。本番停止が許されないメディア基盤で、長期にわたり改修を続けるための前提条件です。

6ヶ月で、CMS の置き換えと AI の新機能を同時に納品

納期を守れた理由は2つあります。PoC で精度の合格基準を先に顧客と合意したこと、そして AI と記事配信を別々の基盤に分けたことです。

  • 6ヶ月で本番納品
  • AI 機能2件を、編集現場の合格基準で本番投入

PoC での精度の合意と基盤の分離は、どちらが欠けても、6ヶ月の納期と品質を両立できなかったと考えています。

AI を業務に組み込む仕事は、合格基準を顧客と合意できた時点で、半分が終わっている。