CASES/CASE / 008
AI 開発スタジオ

クオンツ自動売買の AI 開発

株価が「上がるか下がるか」を当てる問題設定をやめ、先物市場で使われるリスクヘッジの枠組みを株式に応用する問題に置き換えた。古典的な指標から最新の予測モデルまで広く比較したうえで、完全自動の売買モデルと、売買のタイミングを人に提案するモデルの2系統を2.2年運用した。目標利回りを達成した後は、市場局面の変化に合わせて提案型のモデルへ切り替えるところまで担った。

FinTechQuantMachine Learning
TYPE
R&D 共創
ENGAGEMENT
2.2年
SCALE
中規模
OUTCOME
ファンド成績向上
クオンツ自動売買の AI 開発

「上がるか下がるか」を予測する問題は解いていない

株価の上下を当てるという問いは長く研究されてきており、平均すれば勝てないことが知られています。同じ問いに新しいモデルを持ち込んでも、結果は大きく変わりません。

案件のキックオフ時に、研究チームで方針として合意したのは次の一文でした。

問いを変えなければ、技術を入れ替えても勝率は動かない。

アルゴリズムトレードの案件の多くは、「予測精度の競争」の延長線上にあります。新しいモデルが出れば乗り換え、判断材料を増やしていきます。それでも勝率が頭打ちになるのは、同じ問いを解き続けている以上、避けられない結果です。

この状況を変えるには、問いそのものを取り替えるしかありません。そこで、株価の上下を当てる代わりに、先物のデルタヘッジの枠組みを株式に応用する問題に置き換えました。デルタヘッジとは、値動きの影響を打ち消すように保有量を調整し続ける手法です。これにより、株価の方向を当てる問題が、ボラティリティ(値動きの大きさ)の上下を読む問題に変わります。

5系統を横並びで比べ、手法の限界を確かめる

古典的な指標から最新の予測モデルまで、5系統を横並びで比較しました。キックオフで決めた「問いを変える」方針は、この比較で手を尽くしたうえで裏付けたものです。

比較する手法は、意図的に幅広く選びました。先入観で候補を外さないよう、すべてを同じ条件で比べ、勝てる余地がどこにあるかを探しました。

  • 古典的テクニカル指標:網羅的に検証し、何が残るかを確認
  • CAPM の α・β 推定(市場全体の動きで説明できる値動きと、説明できない超過分を分けて推定する手法):株価予測に応用できる範囲を探索
  • 個別銘柄・日経先物・為替の相関:一つの銘柄だけでなく、指数や為替との連動も見る
  • ローソク足チャートの画像認識:株価の推移を画像として読み取る
  • 独自テクニカル指標:既存の指標で説明できない動きを定式化

5系統とも、勝率は同じ水準で頭打ちになりました。横並びの比較から分かったのは、手法を変えても越えられない上限がある、ということだけでした。

モデルは2系統、運用は一本の流れにまとめる

完全自動売買モデルと、売買に入るタイミング(エントリー)を人に提案するエントリー提案モデルの2系統を作りました。どちらかに絞らず両方を持ち、市場環境の変化を察知して切り替える前提で運用を組みました。

市場の局面は周期的に変わります。一つのモデルだけに頼る設計では、局面が変わったときに運用が行き詰まります。2系統を持つことは、局面の変化を乗り切るための備えでした。

完全自動とエントリー提案、2系統の使い分け

2系統は、取引のスタイルも人の関わり方も異なります。市場のボラティリティが下がる局面では、自動から提案へ切り替える運用にしました。

  • 完全自動売買モデル:信用取引のデイトレード(その日のうちに決済する売買)。買いと空売りの両方向で、執行まで AI が担う
  • エントリー提案モデル:信用取引のスイングトレード(日をまたいで保有し、値幅を狙う売買)。買いが中心で、最終判断は人間が行う

自動と提案の切り替えは、市場局面を判定する別のモデルの出力をもとに、運用ルールとして決めておきました。切り替えの判断を、その場の感覚ではなくモデルに委ねることが、長期運用で冷静さを保つ条件です。

リアルタイム取得 → 判定 → 執行 → 通知を一本に通す

モデルが良くても、運用の流れが切れれば収益にはなりません。リアルタイムの株価取得から売買の執行、日次成績のチャット通知までを、一本の流れで運用しました。

  1. リアルタイムの株価を取得
  2. モデルに入力し、持ち高(ポジション)を判定
  3. 売買を執行
  4. 日次成績をチャットに通知

流れ全体は、一人で最初から最後まで原因をたどれる構成に保ちました。これが、研究と運用を素早く行き来できた理由です。本番運用の記録で異常が見つかっても、研究側に持ち帰るまで数分で済みました。

完全自動で目標利回りを達成し、提案モデルへ切り替え

完全自動モデルで目標利回りを達成した後、市場局面の変化を察知してエントリー提案モデルへ切り替えました。

  • 完全自動モデルで目標利回りを達成
  • 完全自動とエントリー提案の2系統を2.2年運用し、市場局面に合わせた切り替えまで対応

自動売買で難しいのは、勝ち続けることよりも、勝てなくなる前に完全自動の運用を止めることです。

ある局面で勝ち続けるモデルは作れても、その局面はいつまでも続かない。

2.2年の伴走で残した最大の納品物は、市場局面の変化を検知して、完全自動から提案型へ切り替えられる運用設計そのものでした。