
CTO がいないスタートアップの本当の壁
アイデアと初期資金はそろっているのに、技術判断の最終責任を誰が持つのかが決まっていません。立ち上げ期に開発が止まるケースの多くは、ここでつまずいています。
外注すれば動くものは作れる。でも、誰がこのプロダクトの形を決めるのかが見えなかった。
ビジネスマッチングというサービス自体は、仕組みとしては単純です。相手を検索して連絡を取れるようにする機能に、目新しさはほとんどありません。難しいのは、収益の取り方と運用の設計を詰めないと、事業として立ち上がらない点でした。
必要だったのは開発の人手ではなく、技術と経営の両方の判断を、一人で下せる役割でした。判断のたびに社外との承認のやりとりが発生する体制では、立ち上げ期に必要な速さで意思決定できません。
収益モデルが先、機能は後
マッチングプラットフォームの機能を先に決めると、収益モデルが後付けになり、運用が始まってから無理が出ます。本案件では収益の仕組みを先に固め、そこから逆算して機能の優先順位を決めました。
議論の順序を、あえて逆にしました。
- どちら側から課金するか:マッチングする双方のうち片方か両方か、定額か成果報酬か
- 無料でどこまで使えるようにするか:マッチング数の上限、検索できる範囲、おすすめ表示の有無
- 運用コストの上限:課金単価の何%まで運用に使えるか
収益の仕組みを最初に固めたことで、機能の議論が「あれもこれも」から「これとこれを最初に出す」に切り替わりました。立ち上げ期にこの切り替えが起きないと、開発の途中で、最初に出す機能の範囲(MVP)が定まらなくなります。
共通仕様書を中心に、5名で全工程を進める
小規模チームにとって大きなリスクになるのは、画面側・データ側・運用基盤側の認識のズレです。共通仕様書をチームの中心に据え、ズレを早い段階でなくすことを、5名で進めるうえでの前提にしました。
この進め方は、設計の技法というより、チームの合意事項を一か所にまとめておく手段として取り入れました。少人数で手戻りなく開発するためです。仕様書を見れば分かる状態にしておけば、口頭で伝える手間も減ります。
クラウド基盤の設定を、すべてコードとして残す
立ち上げ期に必要な規模のクラウド運用基盤を構築しました。設定はすべてコードとして残し、いつでも同じ環境を作り直せるようにしています。少人数チームには、誰かが手作業で構築した環境を保守する余力はありません。
環境をいつでも再現できるようにしたことで、本番で障害が起きたときも、チーム外のメンバーが構成を追えるようになりました。特定の人に頼らない設計を、最初から選んでいます。
共通仕様書を起点に、3領域の認識を常にそろえる
共通仕様書を更新すれば、画面側・データ側・運用基盤側の3領域に変更が自動で反映される仕組みにしました。これにより、5名のうち誰が抜けても作業が止まりません。
共通仕様書の効果は、口頭での伝達が減ることだけではありません。より大きいのは、特定の人しか分からない状態をなくせることです。
仕様変更が出たら最初に共通仕様書を更新する、というルールをチームで明文化しました。仕様書を更新せずに口頭だけで伝えると、どこかで認識のズレが生まれます。
1ヶ月で本番、CTO 不在でも事業を立ち上げる
仕様の提案に始まり、収益モデルと全体の設計を経て、本番運用の開始までを1ヶ月でやり切りました。CTO がいないスタートアップでも、外部の技術パートナーが入れば本番リリースまで進められることを、この案件で示せました。
Kmetric は、チームマネジメントから要件定義、基本設計、詳細設計、開発、テスト、保守運用までを、一人の判断のもとで担いました。役割を分けずに技術と経営の判断を一体で進めたことで、短い期間で本番リリースまで到達できました。
CTO がいなくても、技術と経営の判断を一人に集約できれば、事業は立ち上げられる。
CTO の採用を待たずに進めるための二つの条件
CTO の採用は、立ち上げ期のスタートアップには時間がかかりすぎます。採用に半年、入社した CTO が力を発揮するまでにさらに半年かかることも珍しくありません。その間に競合は先へ進みます。
本案件が1ヶ月で本番リリースまで進められたのは、判断を一人に集約する体制が機能する条件を満たしていたからです。
条件は二つあります。一つは、経営判断と技術判断のあいだで、承認のために別の人を挟まないこと。もう一つは、本番運用まで同じパートナーが責任を持つこと。この二つがそろえば、CTO が着任する前でも事業の立ち上げを進められます。