テクニカル DD

テクニカル DD の費用相場と、
発注プロセス。

テクニカル DD の費用は数百万〜数千万円、期間はおおむね2〜6週間と、案件によって大きな幅があります。Big4・専門ファーム・受託会社(システム開発を請け負う会社)のどこに頼むかで、成果物の中身にも差が出ます。買い手企業やファンドが発注前に押さえておきたい相場・プロセス・依頼先の選び方を整理します。

/ TECH DDCOST & VENDORS

「テクニカル DD はいくらかかるのか」「Big4 と専門ファームと受託会社、どこに頼むのが正解か」— M&A や投資の現場でよく出る質問ですが、踏み込んで答えた記事は多くありません。Big4 系の記事は自社に不利なことを書きにくく、専門ファームの記事は自社の宣伝に寄りやすいためです。なお、Kmetric 自身も専門ファームの一社です。そのため本稿では、各依頼先の強みと弱みを併記し、自社に都合のよい書き方にならないようにしています。なぜテクニカル DD が必要か、何を見るのかについては、「テクニカル DD の進め方と評価観点 — M&A の投資判断で押さえる技術評価の5つの観点」でまとめています。

1. 発注からレポート受領までの4つのフェーズ

DD の発注から完了までは、4つのフェーズに分かれます。実施時期は、LOI(基本合意書)を結んだ後、SPA(株式譲渡契約)を締結する前が標準です。

フェーズ1:スコープ定義(1週間)

何を見るか、何を見ないかをここで決めます。買収目的(事業統合・人材獲得・技術獲得)によって、見るべき範囲は変わります。この段階で範囲を細かく詰めておくほど、見積もりの比較もベンダーへの依頼もぶれなくなります。

フェーズ2:ベンダー選定(1〜2週間)

2〜3社から見積もりと提案書を取り寄せます。スコープ・期間・人員構成・成果物の形式・費用を横並びにして比べます。

フェーズ3:実施(2〜6週間)

DD を実際に行う期間です。対象企業のソースコードの確認、エンジニアへのインタビュー、設計書などの資料確認を並行して進めます。かかる期間はスコープ次第で、コードだけを見る初期評価なら1〜2週間、海外拠点を持つ案件では6週間以上が目安です。

フェーズ4:レポート受領・質疑(1〜2週間)

ベンダーからレポートのドラフトが届き、質疑応答を経て最終版が納品されます。この段階では、経営層・法務・買収後の責任者を交えた質疑の場が欠かせません。

スコープ定義の1週間で手を抜くと、その後の4〜10週間の作業全体がぶれます。

2. 期間の相場 — スコープ別の2・4・6週間モデル

期間はスコープによって大きく変わります。短すぎると表面をなぞっただけのレポートになり、長すぎると交渉や契約のスケジュールに間に合わなくなります。

2週間:ライト DD

ソースコードとアーキテクチャ(システム全体の設計)の中核だけを対象にした、3つのモデルのなかで最も小さいスコープです。候補を早い段階で絞り込むためのもので、LOI 前の初期評価に使われます。

4週間:標準 DD

コードとアーキテクチャに加えて、組織・セキュリティ・運用プロセスまで含めます。多くの案件で、このスコープが選ばれます。

6週間:フル DD

標準 DD に、PMI(買収後の統合)計画の策定まで加えます。統合が難しい案件で選ばれます。

標準は4週間と覚えておき、案件の性質に応じて前後させるのが現実的です。

3. 金額の相場 — 3種類の依頼先の比較表

依頼先は大きく3種類に分かれ、種類ごとに価格帯の傾向があります。以下は市場相場の目安で、案件の規模や求めるスコープによって変わります。

依頼先価格帯人月単価強み注意点
Big4 系(Deloitte・EY・KPMG・PwC)500〜3,000万円月200〜400万円監査法人系列で、上場案件でも安心感がある技術面の掘り下げは、担当するパートナー次第
専門ファーム(Kmetric を含む)300〜1,500万円月120〜200万円技術面の掘り下げと実装経験が強み法務・財務など他の DD との連携は弱め
受託会社200〜800万円月80〜150万円コスト効率とスピードが強みDD としての評価観点の体系化は弱めで、ブランドの信頼感では Big4 に劣る

価格差を生む要素は、人月単価・スコープ・成果物の形式の3つです。同じ「テクニカル DD」でも、見る範囲の広さによって工数は倍以上変わります。成果物も、エグゼクティブサマリーだけなのか、詳細レポート・プレゼン・Q&A セッションまで含むのかで、ボリュームがまったく違います。安すぎる DD には注意が必要です。数十万円台の DD は、「コードを軽く眺めただけ」のレポートになりがちです。

見積もりは総額だけで判断せず、人月単価・スコープ・成果物の3つに分けて比べると、必要な深さに見合った金額かどうかが見えてきます。

4. スコープ設計 — 5つのパターンの比較表

案件の規模、買収後のシナジー、買収目的に応じて、スコープの組み方を5つのパターンに整理しました。期間と費用は、3章の表と同じく市場相場の目安です。

パターン対象案件期間費用目安含む範囲
A:コードのみスタートアップ案件の初期評価1〜2週間100〜300万円コード品質・技術的負債・脆弱性のみ
B:コード + アーキテクチャ一般的な中規模案件2〜3週間200〜600万円+ システム全体の設計・拡張性(事業の成長に耐えられるか)
C:B + 組織 + セキュリティ多くの案件(標準の構成)4週間300〜800万円+ 開発組織の成熟度・セキュリティ体制
D:フル評価(PMI 計画を含む)統合が難しい案件5〜6週間700〜1,500万円+ 統合計画・統合コストの試算
E:クロスボーダー DD海外拠点を持つ案件6週間以上1,000〜3,000万円+ 多言語対応・各地域のコンプライアンス対応

売り手側の視点で「DD を受ける前に何を整えておくか」については、「売却価格を技術で守る — Exit 前に進める M&A 技術整備の実務ガイド」をご参照ください。

見積もりを取る前に、パターン A〜E のどれに当たるかを社内で決めておくと、各社の見積もりを同じ条件で比べられます。

5. 成果物 — 交渉材料になるのはどれか

発注時には「どの成果物が含まれるか」を必ず確認してください。成果物の組み合わせによって、見積額は大きく変わります。

  • エグゼクティブサマリー:経営層向けの5〜10ページの要約です。投資を進めるか否か(Go/NoGo)の判断と、主要なリスクを記載します。
  • 詳細レポート:50〜200ページで、コード品質・アーキテクチャ・セキュリティ・組織を網羅します。
  • リスクマップ:リスクを Critical・High・Medium・Low の4段階で分類し、それぞれに修正コストを付けます。
  • アクションプラン(PMI 向け):買収後100日・1年・3年で何をするかを示したロードマップです。
  • 課題リスト:開発チームのタスク管理ツール(Jira など)にそのまま取り込める形式の一覧です。
  • 経営層向けプレゼン資料:投資委員会(IC)や買収後の経営会議で使う、20〜30枚のスライドです。

交渉で直接役立つのは、「リスクマップ」と「経営層向けプレゼン資料」の2つです。見積もりを比べるときは、まずこの2つが含まれているかを確認してください。

6. Big4・専門ファーム・受託会社の使い分け

3種類の依頼先は、それぞれ向いている案件が違います。どれか1つが常に優れているわけではありません。

Big4 が向く案件

  • 上場企業の案件や、100億円以上の大型案件
  • 監査法人系列であることが社内決裁の要件になっている
  • 法務・財務の DD も同じファームにまとめて発注したい
  • クロスボーダー案件で、海外拠点への対応が必要

専門ファームが向く案件

  • 特定の業界(FinTech・MedTech など)の技術を深く掘り下げたい
  • Big4 の標準的なスコープでは拾いにくい技術的な詳細まで見たい
  • 10〜50億円規模の中規模案件
  • 同じ業界での DD 実績があるファームに頼みたい
  • 実装経験のある評価者に、コードとアーキテクチャを見てほしい

受託会社が向く案件

  • できるだけ安く、早くレポートがほしい
  • 10億円未満の小型案件や、スタートアップの買収
  • 買収後の改修まで同じチームに任せたい
どの依頼先が合うかは、案件の規模・求める技術評価の深さ・スピードの3つで決まります。

7. よくある3つの発注ミスと、発注前に確認したい7つの質問

発注でよくある失敗を3つ挙げます。

失敗例1:スコープを決めずに「広く見てほしい」と頼む

「とりあえず広く見てほしい」と発注すると、ベンダーは限られた工数のなかで広く浅く見ることになります。その結果、最も重大なリスクを見逃すおそれがあります。発注する側でスコープの優先順位を決めてから依頼してください。

失敗例2:価格だけで受託会社を選び、組織面の評価が抜ける

受託会社はコストやスピードに強い一方で、組織・セキュリティ・コンプライアンスを評価する力や、評価観点の体系化には会社ごとにばらつきがあります。価格が魅力的でも、求めるスコープに対応できるかを必ず確認してください。

失敗例3:Big4 を選んで時間切れになる

Big4 は社内の承認手続きが多く、スピードでは他の依頼先に劣ることがあります。交渉期限が迫っている案件で Big4 を選ぶと、競合する買い手に先を越されるリスクが上がります。

発注前に確認したい7つの質問

  1. 本案件で見るべきリスクの上位3つは何か?
  2. 期間は何週間で、交渉・契約のスケジュールに間に合うか?
  3. 必要な成果物は何で、そのうちどれを交渉材料に使うか?
  4. 実際に担当するシニアメンバーは誰で、似た案件を手がけた経験はあるか?
  5. レポートは日本語と英語のどちらで作成するか?
  6. 追加の質疑セッションは含まれているか?
  7. 買収後の改修フェーズでも、継続して支援を受けられるか?
この7つの質問を社内で整理し、候補の各社にも確認したうえで発注先を決めてください。

8. Kmetric が提供するテクニカル DD の範囲と費用感

Kmetric は専門ファームに当たります。特徴は、実装経験のあるエンジニアが自ら技術評価を担当することです。

標準の提供内容

  • 期間:2〜4週間
  • 価格:300〜800万円
  • スコープ:パターン B〜C が標準です。D についてもご相談に応じます。
  • 成果物:エグゼクティブサマリー・詳細レポート・リスクマップ・プレゼン資料を標準で含みます。

実装経験のあるエンジニアが評価する意味

DD を担当するのは、コンサルタント出身者ではなく、開発の現場で実装を担ってきたシニアエンジニアです。自らコードを書いてきた経験をもとに評価するため、買収後の改修コストを現実的に見積もれます。発見したリスクは、買収後の改修にかかる手間の大きさで分類します。そのため、評価結果を価格交渉と PMI 計画にそのまま反映できます。

DD 期間を短くする工夫

事前準備用のテンプレートを使い、対象企業からの資料提出を効率よく進めます。あわせて、コードの自動分析ツールで、品質に関する数値データを先に集めておきます。さらにシニアエンジニア2名が分担して同時に進めることで、深さとスピードを両立させています。

買収後に CTO 代行(フラクショナル CTO)として、改修フェーズまで継続して支援する形については、「フラクショナル CTO がプロダクト価値を引き上げる5つの領域 — Exit に効く技術投資の優先順位」でまとめています。