
三方向の利害が、仕様の議論を止めていた
店舗で長く使われてきた大手 POS のリプレイス案件です。システムの老朽化という技術面の課題に、権利面の制約が重なっていました。既存システムに関わる権利を発注元とは別の関係者(権利関係者)が持っており、仕様に直接手を入れにくかったのです。改修も移行も、思うように進められない状況でした。
画面が見えれば、もっと早く合意できるはずだった。
店舗業務における POS は、予約・会計・在庫・顧客情報にまたがる業務システムです。一度入れると数年単位で使い続けるため、移行の影響は広く及びます。発注元だけでなく、既存システムの権利関係者や、毎日使う店舗の現場も当事者になります。本案件でも、移行案を組み立てる段階で三者の利害が割れていました。
- 発注元の意向:既存ユーザーを失わずに、次世代の POS へ移行したい
- 権利関係者の制約:既存システムの仕様に、直接手を入れることが難しい
- 店舗の現場(利用者):業務を止めずに切り替える必要がある
三者のうちどこか一つの事情でも見落とすと、移行案はそこで止まってしまいます。この案件で最大の制約は、仕様の合意にかかる時間でした。
「言葉で揃える」をやめて、画面で揃える
日々の業務でそのまま使うシステムでは、言葉を重ねて認識を合わせるより、画面を見せて合わせるほうが速く進みます。本案件では、要件定義の段階から AI に画面モック(完成イメージの試作画面)を作らせ、それを見せながら議論する形に切り替えました。
要件定義の進み具合も、画面を見て合意できた項目の数で測るようにしました。
AI モックで、現場と開発側の認識のずれを埋めた
現場が望む画面と、開発側が思い描く画面のあいだには、口頭のやり取りだけでは気づかないまま食い違う部分があります。AI モックを見ながら話すと、その食い違いが議論の早い段階で表に出ます。
- AI 生成モック:一回の打ち合わせのなかで複数案を出して見比べた
- 現場のフィードバック:「それなら、ここを横に並べたい」など、画面を見ながら修正の要望がすぐに出てきた
- 合意形成:仕様書ができあがる前に、画面イメージでできるだけ多くの点で合意した
要件定義が速く進んだ一番の理由は、この「一回で見比べる」進め方です。仕様書を持ち帰って次回までに考えてくる、という従来の往復がなくなりました。
画面を先に見せたことで、権利をめぐる議論が落ち着いた
機能を言葉だけで議論すると、権利関係者との間で意見がぶつかりやすくなります。既存システムと「同じことを別の言葉で説明している」のか、「明確に異なる仕様」なのかを、説明を聞くだけでは見分けられないからです。
画面イメージを起点にすることで、権利関係者にも「具体的に何が変わるか」が伝わり、議論が前に進みました。画面が一枚あれば、言葉だけの議論で起きがちな対立を避けられます。これは、画面で合意をとる進め方の思わぬ副産物でした。
権利が絡む議論には慎重さが欠かせませんが、画面という共通の材料があれば、話を具体的に詰めていけます。
単なる置き換えにとどめず、AI と一緒に作る
古い POS を新しい POS にそのまま移すだけでは、移行コストの割に得るものが多くありません。そこでこのリプレイスを、AI と一緒に開発する進め方を確立する機会と位置づけ直し、AI を開発チームに加えました。
AI を組み込んだ先は、プロダクトの中ではなく開発体制そのものです。設計から実装まで、AI と人間が同じチームでレビュー・テスト・修正のサイクルを回しました。
- AI 担当領域:定型コードの自動生成、テスト項目の提案、既存コードの改善案
- 人間担当領域:業務制約の解釈、権利関係の判断、リリース前の最終承認
- 協働領域:仕様を議論する場での画面モック作り — AI がたたき台を出し、人間が選ぶ
工程ごとに AI と人間の役割分担を調整できる体制が、速度と品質の両立を支えました。要件定義・基本設計・詳細設計・実装の4フェーズ全体で、AI を「メンバーの一人」として扱ったのが本案件の特徴です。
4ヶ月で次世代 POS を本番投入し、運用コストも削減
AI を交えた単一チームで、リプレイスを4ヶ月で完了させました。納品の時点で、運用コストの削減も実現しています。
- 4ヶ月で次世代 POS をリリース
- 要件定義・基本設計・詳細設計・実装の4フェーズ全体で AI をチームに組み込んで開発し、運用コストも削減
日々の業務で使うシステムでも、AI と一緒に作る進め方が成り立つことを確かめました。AI がたたき台を出し、人間が判断する分担は、業務上の制約が重い領域ほど効果を発揮します。これが本案件で得た結論です。
業務システムの開発でも、AI はプロジェクトメンバーの一人として動ける。